[2017年文献] 残存歯数が少ない人ほど認知症の発症リスクが高い
60歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,残存歯数と認知症の発症リスクとの関連を検討した。5.3年間(中央値)の追跡の結果,残存歯数が少ないほど認知症の発症リスクが高くなるという有意な負の関連がみとめられた。良好な口腔内環境の維持は,認知症予防の観点からも重要であると考えられた。
Takeuchi K, et al. Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2017; 65: e95-e100.
- コホート
- 2007年もしくは2008年に健診を受診した60歳以上の1996人(参加率86.3%)のうち,認知症を有する167人,歯科検診データのない202人,ならびにその他のデータに不備のある61人を除いた1566人(男性691人,女性875人)を,2012年11月まで追跡。
追跡期間の中央値は5.3年。
歯科検診で記録された残存歯数により,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。
20本以上(893人),10~19本(348人),1~9本(204人),0本(121人)
認知症および各病型の診断には,それぞれ以下の基準を用いた。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN) - 結 果
- ◇ 対象背景
残存歯数が少ないカテゴリーほど有意に高い値を示していたのは,75歳以上の割合,教育年数10年未満の割合,高血圧の割合,喫煙歴ありの割合,飲酒未経験の割合,1日の歯磨き回数1回以下の人の割合,歯科受診頻度が6か月に1回未満の人の割合,および入れ歯の使用率であった。
◇ 残存歯数と認知症発症リスク
追跡期間中に認知症を発症したのは180人で,うち127人がアルツハイマー病,42人が血管性認知症であった。
アルツハイマー病のうち9例,血管性認知症のうち8例はそれぞれ他の病型をあわせもつ混合型(アルツハイマー病と血管認知症の混合型8人を含む)であった。
残存歯数のカテゴリーごとの認知症発症の多変量調整ハザード比†(95%信頼区間)は以下のとおりで,歯の数が少ないほど認知症発症リスクが高いという独立した有意な関連がみとめられた(†性,年齢,就業状況,教育年数,高血圧,糖尿病,脳卒中既往,飲酒,歯磨き回数,歯科受診頻度,入れ歯の使用で調整)。
[認知症]20本以上1(対照),10~19本1.62(1.06-2.46),1~9本1.81(1.11-2.94),0本1.63(0.95-2.80),P for trend=0.04
[アルツハイマー病]1,1.39(0.83-2.32),1.73(0.97-3.07),1.62(0.87-3.04),P for trend=0.08
[血管性認知症]1,3.19(1.38-7.36),2.49(0.87-7.13),1.94(0.55-6.80),P for trend=0.20
残存歯数と認知症発症リスクとの関連について,性別による有意な相互作用はみとめられなかった。
◇ 結論
60歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,残存歯数と認知症の発症リスクとの関連を検討した。5.3年間(中央値)の追跡の結果,残存歯数が少ないほど認知症の発症リスクが高くなるという有意な負の関連がみとめられた。良好な口腔内環境の維持は,認知症予防の観点からも重要であると考えられた。