[2017年文献] 気流制限のある人では,頸動脈硬化が進展している

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は気流制限(airflow limitation)に特徴づけられる呼吸器疾患だが,さまざまな合併症が知られており,とくに心血管合併症はCOPD患者の死因の第2位を占める。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の断面解析により,気流制限と,心血管疾患危険因子としての頸動脈硬化との関連を検討した。その結果,既知の心血管危険因子による調整を行っても,気流制限のある人では,ない人にくらべて頸動脈内膜-中膜肥厚度が大きいことが示された。この結果は,65歳以上の高齢者にくらべて40~64歳の若年者で顕著であったが,性差や,高血圧・糖尿病・喫煙の有無による差はみとめられなかった。また,気流制限が重度であるほど,頸動脈硬化が進展していた。以上の結果より,気流制限のある人(とくに若年者)では,動脈硬化性疾患のリスクが高いと考えられる。

Kudo K, et al. Association of Airflow Limitation With Carotid Atherosclerosis in a Japanese Community - The Hisayama Study. Circ J. 2017; 81: 1846-1853.pubmed

コホート
2008年に,スパイロメトリー検査を含む健診を受診した40歳以上の2108人(参加率47.1%)のうち,研究への参加を拒否した1人,スパイロメトリー検査を完了できなかった6人,および頸部の超音波検査を受けなかった2人を除いた2099人(男性890人,女性1209人)(断面解析)。

呼吸機能については,健診時のスパイロメトリー検査により,努力性肺活量(forced vital capacity: FVC)および1秒量(forced expiratory volume in 1 second: FEV1[1秒間に吐き出せる息の量])を測定し,1秒率(FEV1/FVC)が70%未満の場合に「気流制限(airflow limitation)あり」とした。
また,気流制限のある人を,%FEV1(FEV1の正常予測値に対する実測値の割合)に基づいて,軽度(%FEV1が80%以上)/中等度(50~79%)/重度(49%以下)の3つのカテゴリーに分類した。

頸部の超音波検査により,平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)および最大IMTを測定するとともに,頸動脈壁肥厚(最大IMT>1.5 mm)の有無についても評価した。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢64歳,男性42.4%,喫煙率40.0%で,気流制限のある人は352人(16.8%)。

気流制限のある人で,ない人にくらべて有意に高い値を示していたのは年齢,男性の割合,収縮期血圧,高血圧の割合,喫煙率,および高感度CRPで,有意に低い値を示していたのは総コレステロール,BMI,努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),%FEV1,1秒率(FEV1/FVC)であった。

平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)は0.72 mm,最大IMTは1.20 mmで,頸動脈壁肥厚は499人にみとめられた。

◇ 気流制限と最大IMT
気流制限の有無ごとにみた最大IMT(多変量調整)は以下のとおりで,気流制限のある人のほうが,ない人にくらべて有意に高い値を示していた。
年齢,性[全体での解析のみ],高血圧,糖尿病,総コレステロール,LDL-C,脂質低下薬服用,BMI,喫煙,飲酒,定期的な運動,および高感度CRPで調整)

 全体: 気流制限なし1.18 mm,あり1.27 mm(P=0.002)
  男性: 1.33 mm,1.41 mm(P=0.05)
  女性: 1.09 mm,1.16 mm(P=0.04)

◇ 気流制限と平均IMT
気流制限の有無ごとにみた平均IMT(多変量調整)は以下のとおりで,気流制限のある人のほうが,ない人にくらべて有意に高い値を示していたが,性別の解析では有意差はみとめられなかった。

 全体: 気流制限なし0.72 mm,あり0.73 mm(P=0.02)
  男性: 0.74 mm,0.75 mm(P=0.07)
  女性: 0.70 mm,0.71 mm(P=0.14)

◇ 気流制限と頸動脈壁肥厚
気流制限のある人における頸動脈壁肥厚のオッズ比(vs. ない人,多変量調整)は以下のとおりで,気流制限のある人では有意にリスクが高くなっていたが,性別の解析では有意差はみとめられなかった。
年齢,性[全体での解析のみ],高血圧,糖尿病,総コレステロール,HDL-C,脂質低下薬服用,BMI,喫煙,飲酒,定期的な運動,および高感度CRPで調整)

 全体: 1.44(95%信頼区間1.09-1.90),P=0.01
  男性: 1.37(0.96-1.95),P=0.09
  女性: 1.46(0.93-2.30),P=0.10

◇ 気流制限の度合いと頸動脈硬化
気流制限のない人,ならびに気流制限が軽度,中等度,および重度の人におけるIMTおよび頸動脈壁肥厚のオッズ比(多変量調整)は以下のとおりで,いずれの指標を用いても,気流制限の度合いが進行するほど頸動脈硬化が有意に進展していた。

 最大IMT: 1.18 mm,1.27 mm,1.25 mm,1.32 mm(P for trend=0.003)
 平均IMT: 0.72 mm,0.72 mm,0.73 mm,0.78 mm(P for trend=0.003)
 頸動脈壁肥厚: 1.00,1.45,1.39,1.58(P for trend=0.02)

◇ 層別解析
年齢層(40~64歳/65歳以上)による層別解析を行った結果,40~64歳では,気流制限のない人に比し,ある人の最大IMT,平均IMTおよび頸動脈壁肥厚のオッズ比が有意に高くなっていた。
高齢者でも同様の傾向がみられたものの,いずれの指標についても有意な差はみとめられなかった。

気流制限と頸動脈硬化の各指標との関連について,高血圧の有無,糖尿病の有無,ならびに喫煙の有無による異質性はみとめられなかった。


◇ 結論
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は気流制限(airflow limitation)に特徴づけられる呼吸器疾患だが,さまざまな合併症が知られており,とくに心血管合併症はCOPD患者の死因の第2位を占める。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の断面解析により,気流制限と,心血管疾患危険因子としての頸動脈硬化との関連を検討した。その結果,既知の心血管危険因子による調整を行っても,気流制限のある人では,ない人にくらべて頸動脈内膜-中膜肥厚度が大きいことが示された。この結果は,65歳以上の高齢者にくらべて40~64歳の若年者で顕著であったが,性差や,高血圧・糖尿病・喫煙の有無による差はみとめられなかった。また,気流制限が重度であるほど,頸動脈硬化が進展していた。以上の結果より,気流制限のある人(とくに若年者)では,動脈硬化性疾患のリスクが高いと考えられる。


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