[2017年文献] 家庭血圧の日間変動性は,血圧値そのものとは独立して認知症発症リスクと関連する
家庭血圧の日間変動と認知症発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。5年間の追跡の結果,家庭血圧でみた血圧日間変動が大きいほど,血圧値そのものやその他の危険因子とは独立して,全認知症,血管性認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが有意に高くなることが示された。
Oishi E, et al. Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population: The Hisayama Study. Circulation. 2017; 136: 516-525.
- コホート
- 2007~2008年の健診を受診した60歳以上の1996人(参加率86.3%)のうち,認知症を有しておらず,家庭血圧を3日以上測定した1674人(男性738人,女性936人)を,2012年11月まで5年間追跡(中央値5.3年間)。
◇ 日間の血圧変動性の指標
28日間にわたって測定された毎朝の家庭血圧値(起床後1時間以内,朝食・服薬前,5分超の安静後に,自動血圧計により3回測定した値の平均)を用いて,対象者を,収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の日間の変動係数(coefficient of variation: CV)の四分位による以下のカテゴリーに分類した(CV=個人の血圧値の標準偏差[SD]/平均値×100[%]として算出し,高値ほど変動が大きいことを示す)。
[SBP]Q1: 5.07%以下,Q2: 5.08%~6.21%,Q3: 6.22%~7.59%,Q4: 7.60%以上
[DBP]Q1: 4.83%以下,Q2: 4.84%~5.99%,Q3: 6.00%~7.60%,Q4: 7.61%以上
また,CVのほかに,以下の指標でみた家庭SBPの日間変動性(それぞれの四分位によるカテゴリー)を用いた検討も行った。
・SD
・最高値と最低値の差(maximum-minimum difference: MMD)
・平均値とは独立した変動性(variability independent of the mean: VIM)†
・平均変動幅(average real variability: ARV)‡
†個人の血圧値のSDを,平均値のx乗(xは,収縮期血圧のSDを収縮期血圧の平均値に対してプロットした結果に近似する曲線から算出する)で割ったもの。血圧変動性の指標としてこれまで用いられてきたSDやCVなどは平均値の影響を受けるのに対し,VIMは平均値の影響をほぼ無視できる。
‡連続した複数回の測定における,前回測定値との差の絶対値を平均したもの。
◇ 認知症の診断
認知症および各病型の診断には,それぞれ以下の基準を用いた。また,追跡期間中に死亡した128人のうち74人では,剖検による脳の病理診断も実施した。
・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherché et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN) - 結 果
- ◇ 対象背景
平均年齢71歳,女性55.9%,収縮期血圧(SBP)138 mmHg,拡張期血圧(DBP)77 mmHg,降圧薬服用率43.3%,心電図異常19.9%,糖尿病21.4%,総コレステロール207 mg/dL,BMI 23.1 kg/m2,心血管疾患既往8.0%,喫煙率13.0%,飲酒率42.4%,週3回以上の身体活動実施率14.2%。
追跡期間中に194人(男性72人,女性122人)が認知症を発症した。
画像診断が行われたのは183人,剖検による脳の病理診断が行われたのは21人,これらが両方行われたのは20人であった。
内訳をみると,アルツハイマー病が134人,血管性認知症が47人であった(それぞれ,アルツハイマー病と血管性認知症の混合型と考えられた7例を含む)。
◇ 家庭SBPの日間変動と認知症発症リスク
SBPのCVのカテゴリーごとの認知症および各病型発症の多変量調整ハザード比#(95%信頼区間)は以下のとおりで,全認知症,アルツハイマー病,血管性認知症のいずれについても,日間の血圧変動が大きいほど発症リスクが高くなる有意な傾向がみとめられた。
(#年齢,性,教育年数,降圧薬服用,心電図異常,糖尿病,総コレステロール,BMI,心血管疾患既往,喫煙,飲酒,身体活動で調整)
[全認知症]Q1: 1.00(対照),Q2: 1.27(0.76-2.10),Q3: 1.29(0.79-2.09),Q4: 2.27(1.45-3.55),P for trend<0.001
[血管性認知症]1.00,1.82(0.62-5.37),1.91(0.67-5.48),2.86(1.06-7.71),P for trend=0.04
[アルツハイマー病]1.00,1.06(0.57-1.97),1.09(0.61-1.95),2.22(1.31-3.75),P for trend<0.001
以上の結果は,さらに28日間の平均SBP値による調整を行っても変わらなかった(全認知症: P for trend<0.001,血管性認知症: P for trend=0.03,アルツハイマー病: P for trend<0.001)。
サブグループ(性,年齢,糖尿病,降圧薬服用,喫煙)ごとに家庭SBPのCVの1 SD(3.11%)増加ごとの全認知症,血管性認知症およびアルツハイマー病発症の多変量調整ハザード比§を比較した結果,いずれについても有意な相互作用はみとめられなかった。
(§年齢,性,教育年数,降圧薬服用,心電図異常,糖尿病,総コレステロール,BMI,心血管疾患既往,喫煙,飲酒,身体活動,平均SBP値で調整)
◇ 家庭DBPの日間変動と認知症発症リスク
DBPのCVのカテゴリー間で認知症および各病型の発症の多変量調整ハザード比#(95%信頼区間)を比較すると,やはり日間の変動が大きいほど認知症,血管性認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが高くなる有意な傾向がみとめられた。
◇ その他の変動性指標を用いた解析
・標準偏差(SD)
全認知症,血管性認知症,アルツハイマー病のいずれについても,変動の大きいカテゴリーほど,発症の多変量調整ハザード比§が有意に高い傾向がみとめられた。
・最高値と最低値の差(maximum-minimum difference: MMD)
全認知症,血管性認知症,アルツハイマー病のいずれについても,変動の大きいカテゴリーほど,発症の多変量調整ハザード比§が有意に高い傾向がみとめられた。
・平均値とは独立した変動性(variability independent of the mean: VIM)
全認知症およびアルツハイマー病について,変動の大きいカテゴリーほど発症の多変量調整ハザード比§が有意に高い傾向がみとめられたが,血管性認知症では変動性との有意な関連はみられなかった。
・平均変動幅(average real variability: ARV)
全認知症およびアルツハイマー病について,変動の大きいカテゴリーほど発症の多変量調整ハザード比§が有意に高い傾向がみとめられたが,血管性認知症では変動性との有意な関連はみられなかった。
◇ 平均SBP値と認知症発症リスク
家庭SBP平均値の四分位によるカテゴリー間で認知症および各病型の発症の多変量調整ハザード比#を比較すると,変動の大きいカテゴリーほど血管性認知症の発症リスクが有意に高くなっていたが,全認知症およびアルツハイマー病については,変動性との有意な関連はみられなかった。
◇ 家庭高血圧の有無と日間変動の組み合わせによる解析
ベースライン時の家庭高血圧の有無(SBP 135 mmHg以上もしくは降圧薬服用/135 mmHg未満)と,SBPの日間変動増大の有無(CVのカテゴリーがQ4/Q1~3)の組み合わせごとに血管性認知症およびアルツハイマー病発症の多変量調整ハザード比#(95%信頼区間)を比較した結果は以下のとおりで,血管性認知症については「家庭高血圧+変動増大」カテゴリーで,アルツハイマー病については家庭高血圧の有無にかかわらず変動が増大しているカテゴリーで,有意なリスクの増加がみとめられた。
・血管性認知症
家庭高血圧なし+変動増大なし: 1.00(対照)
家庭高血圧あり+変動増大なし: 2.01(0.66-6.08)
家庭高血圧なし+変動増大あり: 1.75(0.32-9.64)
家庭高血圧あり+変動増大あり: 3.44(1.10-10.74)
・アルツハイマー病
家庭高血圧なし+変動増大なし: 1.00(対照)
家庭高血圧あり+変動増大なし: 0.99(0.55-1.79)
家庭高血圧なし+変動増大あり: 2.46(1.17-5.15)
家庭高血圧あり+変動増大あり: 1.98(1.08-3.63)
認知症の各病型の発症リスクに対する,SBP平均値とSBPのCVとの有意な相互作用はみられなかった。この結果は,SBPの中央値とSBPのCV中央値を用いた解析でも同様であった。
◇ 結論
家庭血圧の日間変動と認知症発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究による検討を行った。5年間の追跡の結果,家庭血圧でみた血圧日間変動が大きいほど,血圧値そのものやその他の危険因子とは独立して,全認知症,血管性認知症およびアルツハイマー病の発症リスクが有意に高くなることが示された。