[2019年文献] 血清中のリポ多糖結合蛋白質濃度が高い人は心血管疾患発症リスクが高い
グラム陰性菌は人の消化器・泌尿器・呼吸器・口腔などに常在し,その細胞膜構成成分であるリポ多糖結合蛋白質(LBP)は,全身性の軽微な慢性炎症を引き起こす可能性が示唆されている。これまでの疫学研究からは,血清中のLBP濃度は,動脈硬化や心血管疾患(CVD)と関連することが報告されている。そこで,40歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,血清中のLBP濃度とCVD発症リスクとの関連について検討した。その結果,血清中のLBP濃度が高い人ほど,CVD発症リスクが有意に高かった。
Asada M, et al. Serum Lipopolysaccharide-Binding Protein Levels and the Incidence of Cardiovascular Disease in a General Japanese Population: The Hisayama Study. J Am Heart Assoc. 2019; 8: e013628.
- コホート
- 2002~2003年の健診を受診した40歳以上の3328人(参加率77.6%)のうち,研究への同意が得られなかった30人,ベースライン時に脳卒中または冠動脈疾患(CHD)既往のある190人,血清中のリポ多糖結合蛋白質(LBP)のデータのない448人,血液サンプルに不備のあった68人,ECGまたは血清中のインスリンのデータのない24人を除いた2568人(男性1086人,女性1482人)を10.2年間(中央値)追跡。
血清中のLBP濃度はELISA法(Hycult Biotech)を用いて測定した。
血清中のLBP濃度(μg/mL)の四分位値により,対象者を次の4つのカテゴリーに分類した。
[Q1]2.20~9.68(641人),[Q2]9.69~10.93(643人),[Q3]10.94~12.40(639人),[Q4]12.41~24.34(645人) - 結 果
- 血清中のLBP濃度の平均値は11.2 μg/mL。LBP濃度のカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり(P for trend<0.0001)。
年齢(歳): 57.0,60.0,61.8,64.2
男性: 34.4%,38.9%,46.0%,49.7%
降圧薬服用: 13.2%,18.4%,21.9%,22.7%
糖尿病: 8.7%,13.2%,16.9%,18.6%
高感度CRP(mg/L): 0.23,0.36,0.59,1.47
LBP濃度とこれらの対象背景との相関の強さを比較したところ,高感度CRPとの相関度がもっとも高かった(年齢・性別による調整後の相関係数: 0.60,P<0.0001)。
◇ 血清中のLBP濃度ごとの心血管疾患(CVD)の累積発症率
血清中のLBP濃度のカテゴリーごとに,CVD,CHD,脳卒中発症の累積発症率(性・年齢調整,2002~2012年)をみたところ,[Q1]と比べて,[Q3],[Q4]ではCVD発症率が有意に高かった。また,[Q4]では,CHD,脳卒中発症率も有意に高かった。
◇ 血清中のLBP濃度とCVD発症リスクとの関連
血清中のLBP濃度のカテゴリーごとの,CVD,CHD,脳卒中発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。[Q4]では[Q1]に比して,CVD発症リスクが有意に高かった(†年齢,性別,収縮期血圧,降圧薬服用,糖尿病,総コレステロール値,HDL-C値,トリグリセリド値,脂質低下薬服用,BMI,eGFR,心電図異常,喫煙,飲酒,運動,インスリン抵抗性,高感度CRPで調整)。
CVD: [Q1]1.00,[Q2]1.02(0.59-1.75),[Q3]1.44(0.86-2.41),[Q4]1.72(1.01-2.93),P for trend=0.08
CHD: 1.00,1.04(0.46-2.33),1.84(0.88-3.86),1.44(0.65-3.18),P for trend=0.21
脳卒中: 1.00,1.10(0.55-2.18),1.13(0.57-2.26),1.97(0.99-3.91),P for trend=0.08
血清中のLBP濃度の1 SD(2.3 μg/mL)増加ごとのCVD,CHDならびに脳卒中発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも有意な関連はみられなかった。
CVD: 1.17(0.98-1.39),CHD: 1.20(0.93-1.53),脳卒中: 1.15(0.92-1.44)
◇ 危険因子の有無別でみた,LBP濃度とCVD発症リスクとの関連
CVD発症の危険因子(年齢,性別,高血圧,糖尿病,BMI,eGFR,心電図異常,喫煙,飲酒,日常的な運動,インスリン抵抗性,降圧薬・血糖降下薬・脂質低下薬服用)別に,LBP濃度の1 SD増加ごとのCVD発症の多変量調整‡ハザード比(95%信頼区間)をみたところ,有意な異質性はみとめられなかったが(P for heterogeneity>0.10),飲酒をする人としない人では異質性がみとめられた(‡年齢,性別,収縮期血圧,降圧薬服用,糖尿病,総コレステロール値,HDL-C値,トリグリセリド値,脂質低下薬服用,BMI,eGFR,心電図異常,喫煙,飲酒,運動,インスリン抵抗性で調整)。
飲酒(なし vs. あり): 1.36(1.14-1.61) vs. 1.08(0.86-1.36),P for heterogeneity=0.09
◇ 結論
グラム陰性菌は人の消化器・泌尿器・呼吸器・口腔などに常在し,その細胞膜構成成分であるリポ多糖結合蛋白質(LBP)は,全身性の軽微な慢性炎症を引き起こす可能性が示唆されている。これまでの疫学研究からは,血清中のLBP濃度は,動脈硬化や心血管疾患(CVD)と関連することが報告されている。そこで,40歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,血清中のLBP濃度とCVD発症リスクとの関連について検討した。その結果,血清中のLBP濃度が高い人ほど,CVD発症リスクが有意に高かった。