[2020年文献] GWASに基づく多遺伝子(polygenic)スコアは虚血性脳卒中発症リスク予測に有用
虚血性脳卒中(IS)の発症には遺伝的要因が関連すると考えられている。過去に行われた日本人IS患者13214人と対照群26470人のゲノムワイド関連解析(GWAS)によると,ISに関連する35万以上の一塩基多型(SNP)の情報に基づく多遺伝子スコア(多数のSNPの情報を累積してISリスクをスコア化したもの)は,5から約10万のSNPの情報に基づく遺伝子スコアよりも,ISリスクと強く関連していた。このことから,多遺伝子スコアは,IS発症の遺伝的なリスクを評価するのに有用である可能性が示唆された。そこで,40歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,多遺伝子スコアとIS発症リスクとの関連を調べた。その結果,多遺伝子スコアが高値の人ほど,IS発症リスクが有意に高くなった。また,ISリスク因子(高血圧,糖尿病,喫煙)を保有する数が増えると,多遺伝子スコアが高値の人では,低値の人に比して,IS発症リスクが高かった。多遺伝子スコアは,IS発症リスクの有用な予測因子となる可能性が示唆された。
Hachiya T, et al. Genome-Wide Polygenic Score and the Risk of Ischemic Stroke in a Prospective Cohort: The Hisayama Study. Stroke. 2020; 51: 759-765.
- コホート
- 2002~2003年の健診を受診した40歳以上の3328人(参加率77.6%)のうち,遺伝子解析への同意が得られなかった93人,ベースライン時に脳卒中または冠動脈疾患既往のある187人,遺伝子型のデータのない10人を除いた3038人(男性1278人,女性1760人)を10.2年間(中央値)追跡。
35万7367のSNPの情報を用いて,虚血性脳卒中(IS)リスクに関するの多遺伝子スコアを算出し(文献: Hachiya T et al. Stroke. 2017),その五分位値により,対象者を5つのカテゴリー(Q1~Q5)に分類した。 - 結 果
- 追跡期間中にISを発症した人は91人。
◇ 対象背景
多遺伝子スコアのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。
年齢(歳): [Q1]61.2,[Q2]61.4,[Q3]60.9,[Q4]62.0,[Q5]60.9,P for trend=0.93
男性: 43.9%,45.0%,41.1%,41.4%,39.0%,P for trend=0.03
高血圧: 35.9%,42.7%,41.9%,45.6%,47.4%,P for trend<0.001
糖尿病: 15.1%,17.6%,17.3%,16.3%,18.1%,P for trend=0.34
BMI(kg/m2): 22.7,23.1,22.9,23.2,23.4,P for trend=0.003
喫煙: 26.5%,20.9%,20.7%,21.4%,19.9%,P for trend=0.02
飲酒: 42.9%,45.1%,43.4%,43.8%,42.6%,P for trend=0.76
◇ 多遺伝子スコアとIS発症リスクとの関連
多遺伝子スコアのカテゴリーごとのIS発症の多変量調整†ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。Q1に比して,Q3,Q5ではIS発症リスクが有意に高く,高値のカテゴリーほどIS発症リスクが高くなる傾向がみられた(†年齢,性別,高血圧,糖尿病,総コレステロール,BMI,心電図異常,喫煙,飲酒,運動習慣で調整)。
[Q1]1.00(対照),[Q2]1.68(0.77-3.67),[Q3]2.15(1.01-4.58),[Q4]1.91(0.89-4.09),[Q5]2.43(1.15-5.12),P for trend=0.03
◇ 多遺伝子スコア低値群と高値群との比較
多遺伝子スコア(高値群[Q3~5] vs. 低値群[Q1+2])ならびにその他のISリスク因子(あり vs. なし)別にみた,IS発症の年齢・性調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。多遺伝子スコアの低値群に比して,高値群ではIS発症リスクが有意に高かった。また,その他のISリスク因子では,糖尿病がない人に比して,ある人ではIS発症リスクが有意に高かった。
多遺伝子スコア高値群( vs. 低値群): 1.63(1.04-2.55),P=0.03
高血圧あり( vs. なし): 1.41(0.91-2.17),P=0.12
糖尿病あり( vs. なし): 1.72(1.09-2.72),P=0.02
高コレステロール血症あり( vs. なし): 0.90(0.57-1.42),P=0.67
肥満あり( vs. なし): 0.67(0.39-1.15),P=0.14
喫煙習慣あり( vs. なし): 1.54(0.91-2.60),P=0.11
飲酒習慣あり( vs. なし): 0.99(0.60-1.61),P=0.96
運動習慣あり( vs. なし): 0.77(0.40-1.48),P=0.43
◇ ISリスク因子の保有状況別にみた多遺伝子スコア低値群と高値群のIS発症リスク
ISリスク因子(高血圧,糖尿病,喫煙)の保有状況別にみた,多遺伝子スコア低値群ならびに高値群のIS発症の年齢・性調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。多遺伝子スコア高値群で,かつISリスク因子が2個以上の人では,多遺伝子スコア低値群で,かつISリスク因子がない人に比して,IS発症リスクが有意に高かった。
低値群: [0個]1(対照),[1個]1.04,[2個以上]1.62
高値群: 1.18,1.78,3.03(P=0.008)
◇ 結論
虚血性脳卒中(IS)の発症には遺伝的要因が関連すると考えられている。過去に行われた日本人IS患者13214人と対照群26470人のゲノムワイド関連解析(GWAS)によると,ISに関連する35万以上の一塩基多型(SNP)の情報に基づく多遺伝子スコア(多数のSNPの情報を累積してISリスクをスコア化したもの)は,5から約10万のSNPの情報に基づく遺伝子スコアよりも,ISリスクと強く関連していた。このことから,多遺伝子スコアは,IS発症の遺伝的なリスクを評価するのに有用である可能性が示唆された。そこで,40歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,多遺伝子スコアとIS発症リスクとの関連を調べた。その結果,多遺伝子スコアが高値の人ほど,IS発症リスクが有意に高くなった。また,ISリスク因子(高血圧,糖尿病,喫煙)を保有する数が増えると,多遺伝子スコアが高値の人では,低値の人に比して,IS発症リスクが高かった。多遺伝子スコアは,IS発症リスクの有用な予測因子となる可能性が示唆された。