[2011年文献] 喫煙は虚血性脳卒中,くも膜下出血,冠動脈疾患発症リスクと関連,高脂血症合併でさらにリスク増加
これまで,日本人を対象としたコホート研究から喫煙と冠動脈疾患との有意な関連が示されてきたが,喫煙と脳卒中については一貫した結果が得られていない。そこで,喫煙と心血管疾患発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(14年間追跡)による検討を行った。その結果,喫煙は虚血性脳卒中,くも膜下出血,冠動脈疾患の発症リスクと関連することが示され,とくに喫煙に高脂血症が合併した人ではリスクの増加が顕著であった。近年,高脂血症の割合が急増している日本人における禁煙の重要性があらためて示唆された。
Hata J, et al. Combined effects of smoking and hypercholesterolemia on the risk of stroke and coronary heart disease in Japanese: the Hisayama study. Cerebrovasc Dis. 2011; 31: 477-84.
- コホート
- 1988年の健診を受診した40~79歳の2587人(参加率80.2%)のうち,脳卒中または冠動脈疾患既往のある88人,75 g経口ブドウ糖負荷試験を完了していない77人,ならびに追跡開始時までに死亡した1人を除いた2421人(男性1037人,女性1384人)を,1988年12月から2002年11月にかけて14年間追跡。
剖検率は74.6%。
喫煙については,喫煙未経験者(1477人),禁煙者(332人),少量喫煙者(1日20本未満,348人),多量喫煙者(1日20本以上,264人)の4つのカテゴリーを用いて解析を行った。
高脂血症の定義は,総コレステロール値≧220 mg/dLとした。 - 結 果
- ◇ 対象背景
喫煙未経験者にくらべて,禁煙者の年齢は高かったが,多量喫煙者の年齢は低かった。禁煙者,および喫煙者では飲酒者(月1回以上)の割合および男性の割合が高かった。喫煙者のBMIは低く,多量喫煙者では高血圧の割合が低かった。
◇ 喫煙と心血管疾患(CVD)リスク
追跡期間中に,281人が初回のCVDを発症した。
うち,脳卒中を発症したのは194人(虚血性脳卒中132人,脳内出血43人,くも膜下出血19人),冠動脈疾患(CHD)を発症したのは112人であった。
喫煙とCVD発症リスクとの関連について,性別による有意な相互作用はみとめられなかった(P for interaction=0.97)ことから,男女をあわせて解析を行った。
喫煙状況ごとのCVD,脳卒中,CHD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれについても喫煙者における有意なリスク増加がみとめられた。禁煙者では有意なリスク増加はみられなかった。
・ CVD
喫煙未経験者: 1.0 (対照)
禁煙者: 1.25 (0.80-1.93)
少量喫煙者: 1.80 (1.21-2.66,P=0.004)
多量喫煙者: 2.04 (1.29-3.24,P=0.003)
・ 全脳卒中
喫煙未経験者: 1.0 (対照)
禁煙者: 1.53 (0.90-2.61)
少量喫煙者: 1.90 (1.18-3.06,P=0.009)
多量喫煙者: 2.01 (1.11-3.65,P=0.02)
・ CHD
喫煙未経験者: 1.0 (対照)
禁煙者: 1.10 (0.56-2.15)
少量喫煙者: 1.88 (1.02-3.47,P=0.04)
多量喫煙者: 2.31 (1.17-4.57,P=0.02)
脳卒中の各病型についても検討した結果,虚血性脳卒中とくも膜下出血については,喫煙未経験者に比して喫煙者(少量喫煙者+多量喫煙者)の多変量調整ハザード比が有意に高くなっていたが,出血性脳卒中については有意差はなかった。禁煙者では有意なリスク増加はみられなかった。
◇ 喫煙とその他の危険因子の相互作用
喫煙とCVD発症リスクとの関連について,高脂血症や高血圧など,その他の因子による相互作用がみられるかどうかを検討した。
その結果,高脂血症による有意な相互作用(P for interaction=0.001)がみとめられ,喫煙と高脂血症が合併する人では,いずれもない人に比してCVD発症の多変量調整ハザード比が2.68(95%信頼区間1.81-3.95,P<0.001)と有意に高かった。
その他の危険因子(高血圧,糖尿病,肥満,飲酒,定期的な運動)については,有意な相互作用は検出されなかった。
CVDの内訳(全脳卒中,CHD)ごとに検討した結果,いずれについても喫煙と高脂血症の有意な相互作用がみとめられた(それぞれP for interaction=0.048,P for interaction=0.01)。
さらに脳卒中病型ごとに解析すると,虚血性脳卒中,くも膜下出血について,喫煙と高脂血症が合併する人でリスクが高い傾向がみられたが,喫煙と高脂血症による有意な相互作用がみられたのはくも膜下出血についてのみであった(P for interaction=0.005)。
◇ 結論
これまで,日本人を対象としたコホート研究から喫煙と冠動脈疾患との有意な関連が示されてきたが,喫煙と脳卒中については一貫した結果が得られていない。そこで,喫煙と心血管疾患発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(14年間追跡)による検討を行った。その結果,喫煙は虚血性脳卒中,くも膜下出血,冠動脈疾患の発症リスクと関連することが示され,とくに喫煙に高脂血症が合併した人ではリスクの増加が顕著であった。近年,高脂血症の割合が急増している日本人における禁煙の重要性があらためて示唆された。