[2011年文献] 尿中アルブミン/クレアチニン比は,正常範囲内から末梢動脈疾患と関連
日本人一般住民を対象としたコホート研究のデータを用いて,尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)と末梢動脈疾患との関連を検討した。その結果,正常アルブミン尿の範囲内においても,UACRの増加は末梢動脈疾患リスクと直線的に関連することが示された。また,末梢動脈疾患リスクを予測するモデルにUACRを含めると,リスク予測能が有意に改善した。これらの結果から,アルブミン尿を有する人では末梢動脈疾患の早期発見や治療を考慮すべきであることが示唆された。
Usui T, et al. Albuminuria as a risk factor for peripheral arterial disease in a general population: the Hisayama study. J Atheroscler Thromb. 2011; 18: 705-12.
- コホート
- 久山町研究の第4集団(断面解析)。
2002年に健診を受診し,足関節上腕血圧比(ABI)を測定した40歳以上の久山町住民3328人のうち,同意が得られない30人,尿サンプルがない84人,足関節血圧値の情報がない153人を除いた3061人(男性1342人,女性1719人)。
尿中アルブミン/クレアチニン比(mg/g)により,全体を以下のように5つのカテゴリーに分けて,ABI<0.9で定義した末梢動脈疾患との関連を検討した。
正常(低)アルブミン尿(<5.6):821人
正常(中)アルブミン尿(5.6~10.8):825人
正常(高)アルブミン尿(10.9~29.9):822人
微量アルブミン尿(30.0~300.0):520人
顕性アルブミン尿(>300.0):73人 - 結 果
- ◇ 対象背景
尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が高いカテゴリーほど,平均年齢,収縮期血圧値,拡張期血圧値,降圧薬使用率,高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・肥満の割合,高感度CRP値が高い割合,および心血管疾患既往の割合が高かった。
◇ UACRと末梢動脈疾患
末梢動脈疾患を有していたのは45人(1.47%)であった。
UACRのカテゴリーごとの末梢動脈疾患の有病率(年齢・性別により調整)は以下のとおりで,UACRが高いカテゴリーほど有意に高かった(P for trend<0.001)。
正常(低)アルブミン尿:0.34%
正常(中)アルブミン尿:0.80%
正常(高)アルブミン尿:2.02%
微量アルブミン尿:2.50%
顕性アルブミン尿:2.53%
UACRのカテゴリーごとの末梢動脈疾患の多変量調整オッズ比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,UACRが高いカテゴリーほど有意に高かった(P for trend=0.005)。
*年齢,性別,高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,肥満,高感度CRP高値,心血管疾患既往,喫煙習慣,およびアルコール摂取量により調整
正常(低)アルブミン尿:1.0(対照)
正常(中)アルブミン尿:1.36(0.32-5.77)
正常(高)アルブミン尿:3.56(1.00-12.65)
微量アルブミン尿:4.44(1.21-16.26)
顕性アルブミン尿:4.64(0.84-25.66)
また,UACRが10倍になるごとの多変量調整オッズ比は1.85(95%信頼区間 1.12-3.06)であった。
◇ UACRの末梢動脈疾患リスク予測能
末梢動脈疾患リスクの予測能を受信者動作特性曲線下面積(area under the curve: AUC)により,モデル1(変数: 年齢,性別,高血圧,糖尿病,高脂血症,肥満,高感度CRP高値,心血管疾患既往,喫煙歴,飲酒),および,モデル1にUACRを加えたモデル2の末梢動脈疾患との関連を比較した結果,モデル2ではモデル1に比して末梢動脈疾患リスクの予測能が有意に増加した(AUC:0.80 vs. 0.77,P=0.02)。
◇ 層別化解析
種々の心血管危険因子(高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,肥満,高感度CRP高値,心血管疾患既往,喫煙習慣,アルコール摂取)の有無により設定したサブグループにおいて,UACRが10倍になるごとの末梢動脈疾患のオッズ比を検討した。その結果,喫煙者で非喫煙者に比してリスクが増加する傾向(P for interaction=0.097)がみられたが,その他の因子については相互作用はみとめられなかった。
◇ 結論
日本人一般住民を対象としたコホート研究のデータを用いて,尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)と末梢動脈疾患との関連を検討した。その結果,正常アルブミン尿の範囲内においても,UACRの増加は末梢動脈疾患リスクと直線的に関連することが示された。また,末梢動脈疾患リスクを予測するモデルにUACRを含めると,リスク予測能が有意に改善した。これらの結果から,アルブミン尿を有する人では末梢動脈疾患の早期発見や治療を考慮すべきであることが示唆された。