[2013年文献] 『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の脂質管理区分は,一般住民の頸動脈硬化の進展度と一致
頸動脈における潜在性動脈硬化の進展度が,(1)NIPPON DATA80のリスクチャートを用いて推定した冠動脈疾患死亡の絶対リスク,ならびに(2)これに基づいて設定された日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の脂質管理目標設定のためのカテゴリー区分と一致しているかどうかについて,無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により検討した。その結果,CHD死亡の絶対リスクが高いほど,また厳格な脂質管理が求められる区分ほど頸動脈IMTが高値で,プラークの数も多くなっていた。このように,複数の危険因子を考慮した包括的なリスク層別化が一般地域住民男性の頸動脈硬化進展度と一致していることが示された。心血管疾患の予防のために,高リスクに分類される人では,脂質値をはじめ,生活習慣改善や薬物治療などによる包括的な管理を行う必要がある。
Kadota A, et al.; SESSA Research Group NIPPON DATA80/90 Research Group. Carotid intima-media thickness and plaque in apparently healthy Japanese individuals with an estimated 10-year absolute risk of CAD death according to the Japan Atherosclerosis Society (JAS) guidelines 2012: the Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis (SESSA). J Atheroscler Thromb. 2013; 20: 755-66.
- コホート
- 滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis: SESSA)。
滋賀県草津市在住の一般地域住民男性から年齢層ごとに無作為抽出され,研究への参加に同意した40~79歳の男性1096人のうち,40~74歳で心血管疾患既往がなく,頸動脈超音波検査を受診した868人(断面解析)。
頸動脈超音波検査により,総頸動脈(CCA),総頸動脈球部(bulb),内頸動脈(ICA)の頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)を測定するとともに,CCAからICAにかけてのプラークの有無も評価した。 - 結 果
- ◇ 対象背景
年齢61.8歳,血圧136 / 80 mmHg,心拍数65 拍/分,総コレステロール211 mg/dL,トリグリセリド130 mg/dL,HDL-C 59 mg/dL,血清クレアチニン0.8 mg/dL,推算糸球体濾過量74 mL/分/1.73 m2,血糖102 mg/dL,HbA1c 6.0%,降圧薬服用26.4%,脂質低下薬服用11.9%,糖尿病薬服用9.6%,糖尿病21.0%,末梢動脈疾患1.2%,CKD 16.1%,喫煙率34.9%,飲酒率78.3%。
◇ 冠動脈疾患(CHD)死亡の絶対リスクと頸動脈硬化の進展度
NIPPON DATA80のリスクチャート(抄録へ)を用いて推定したCHD死亡の絶対リスクにより,対象者を0.5%未満(201人)/0.5%以上2.0%未満(348人)/2.0%以上5.0%未満(199人)/5.0%以上(120人)の4つに分類した。
CHD死亡の絶対リスクにより対象背景を比較すると,リスクが高いほど年齢が高く,血圧,血清脂質や血糖などの動脈硬化疾患の危険因子の値が高い有意な傾向がみとめられた。
CHD死亡の絶対リスクにより頸動脈硬化の各指標を比較した結果は以下のとおりで(それぞれ0.5%未満,0.5%以上2.0%未満,2.0%以上5.0%未満,5.0%以上の値),いずれについてもリスクが高いほど高値となる有意な傾向がみとめられた。
平均IMT: 0.71 mm,0.82 mm,0.88 mm,0.95 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(CCA): 0.69 mm,0.80 mm,0.87 mm,0.92 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(ICA): 0.64 mm,0.72 mm,0.75 mm,0.82 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(bulb): 0.80 mm,0.98 mm,1.03 mm,1.14 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(CCA)>1 mmの割合: 0%,8.3%,15.6%,30.8%(P for trend<0.001)
プラークの保有率: 50.2%,80.7%,80.9%,92.5%(P for trend<0.001)
プラーク数: 1.0,2.2,2.9,4.0(P for trend<0.001)
◇ ガイドラインの脂質管理区分と頸動脈硬化の進展度
日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』のフローチャートに基づき,対象者を脂質管理目標設定のための管理区分(カテゴリーI: LDL-C管理目標値160 mg/dL未満[170人]/II: 140 mg/dL未満[245人]/III: 120 mg/dL未満[453人])に分類した。
管理区分のあいだで頸動脈硬化の各指標を比較した結果は以下のとおりで(それぞれカテゴリーI,II,IIIの値),いずれについても,厳格な脂質管理が求められる区分ほど高値となる有意な傾向がみとめられた。
平均IMT: 0.70 mm,0.81 mm,0.88 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(CCA): 0.68 mm,0.79 mm,0.86 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(ICA): 0.64 mm,0.70 mm,0.77 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(bulb): 0.81 mm,0.97 mm,1.04 mm(P for trend<0.001)
平均IMT(CCA)>1 mmの割合: 0.6%,7.3%,17.4%(P for trend<0.001)
プラークの保有率: 48.2%,79.5%,83.2%(P for trend<0.001)
プラーク数: 0.9,2.1,3.0(P for trend<0.001)
◇ 層別解析
ガイドラインの管理区分ごとの頸動脈硬化の各指標について,年齢層(中央値[63歳]以上/未満)による層別解析を行ったが,結果は年齢層を問わずほぼ同様であった。
降圧薬,脂質低下薬または糖尿病薬の非服用者に限った感度分析もそれぞれ行ったが,厳格な脂質管理が求められる区分ほど頸動脈硬化が進展しているという結果は変わらなかった。
また,ガイドラインのフローチャートでは,糖尿病,CKD,脳梗塞(心原性脳塞栓を除く),または末梢動脈疾患のいずれかをもつ場合は,CHD死亡の絶対リスクにかかわらずカテゴリーIIIに分類される。このことをふまえ,カテゴリーIIIのなかで,糖尿病およびCKDの有無ごとに頸動脈硬化の進展度を比較した。
その結果,平均IMT(CCA)>1 mmの割合は,糖尿病有病者のほうが非有病者にくらべて高くなっていたが(P=0.023),その他の指標については,糖尿病の有無による差はなかった。CKD有病者と非有病者のあいだでは,いずれの頸動脈硬化の指標についても有意な差はみとめられなかった。
◇ 結論
頸動脈における潜在性動脈硬化の進展度が,(1)NIPPON DATA80のリスクチャートを用いて推定した冠動脈疾患死亡の絶対リスク,ならびに(2)これに基づいて設定された日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版』の脂質管理目標設定のためのカテゴリー区分と一致しているかどうかについて,無作為に抽出された日本人一般住民男性を対象としたコホート研究の断面解析により検討した。その結果,CHD死亡の絶対リスクが高いほど,また厳格な脂質管理が求められる区分ほど頸動脈IMTが高値で,プラークの数も多くなっていた。このように,複数の危険因子を考慮した包括的なリスク層別化が一般地域住民男性の頸動脈硬化進展度と一致していることが示された。心血管疾患の予防のために,高リスクに分類される人では,脂質値をはじめ,生活習慣改善や薬物治療などによる包括的な管理を行う必要がある。