[2008年文献] 日本における脳血管疾患患者の抗血栓薬,降圧薬,脂質低下薬の使用率は,世界9地域中でもっとも低かった
REACH Registryに登録された世界44か国の脳血管疾患(CeVD)患者を対象に,症状や危険因子の保有状況について検討を行った。その結果,CeVD既往のある人は危険因子の保有状況が悪く,合併症をもつ人も多かった。危険因子の状況,および治療状況は地域によって異なっていたが,全体に治療は十分ではないと考えられた。日本人CeVD患者の抗血栓薬,降圧薬,脂質低下薬の使用率はもっとも低かった。
Röther J, et al.; REACH Registry Investigators. Risk factor profile and management of cerebrovascular patients in the REACH Registry. Cerebrovasc Dis. 2008; 25: 366-74.
- コホート
- 世界44か国において,冠動脈疾患(CAD),脳血管疾患(CeVD),末梢動脈疾患(PAD)のいずれかのアテローム血栓症を持っている,またはアテローム血栓症の危険因子[参照]を3つ以上持っている45歳以上の外来患者68,236人。
登録された68,236人中,脳血管疾患(CeVD)患者は18,992人。
さらに以下のサブグループごとの検討も行った。
- 「全CeVD」: 脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA: transient ischemic attack)のいずれかを発症した人(CAD,PAD合併の有無は問わない) (18,992人)
- 「脳卒中のみ」: 脳卒中を発症し,TIAは発症していない人 (10,202人[53.7 %])
- 「TIAのみ」: TIAを発症し,脳卒中は発症していない人 (5,268人[27.7 %])
なお,脳卒中とTIAの両方を起こしたのは3,522人(18.5 %)だった。 - 「CeVD(合併症あり)」: CeVDにCADまたはPADを合併している人 (7,633人[40 %])。
うち,CADのみを合併する人は30 %,PADのみを合併する人は4 %,CADとPADの両方を合併する人は6 %だった。 - 「CeVD(合併症なし)」: CeVDを発症したが,CAD,PADのいずれも合併していない人 (11,359人[60 %])
- 結 果
- 全対象(68,236人),CeVD患者(18,992人),日本人CeVD患者(2,035人)の対象背景はそれぞれ以下のとおり。
年齢: 68.6歳,69.5歳,70.9歳
男性の割合: 63.7 %,59.5 %,69.6 %
高血圧: 50.0 %,54.5 %,46.3 %
高血圧治療: 81.8 %,83.2 %,74.4 %
総コレステロール>200 mg/dL: 39.3 %,45.7 %,46.2 %
高脂血症治療: 72.2 %,57.9 %,35.9 %
心房細動: 10.5 %,13.4 %,8.6 %
糖尿病:44.0 %,37.2 %,36.5 %
糖尿病治療: 40.2 %,33.1 %,28.6 %
糖尿病性腎症: 10.6 %,8.5 %,7.7 %
肥満(BMI≧30 kg/m2): 30.0 %,23.5 %,3.4 %
腹部肥満: 46.5 %,42.5 %,10.7 %
喫煙率: 15.2 %,14.2 %,16.2 %
以前喫煙していた人の割合: 41.6 %,38.6 %,45.8 %
無症候性頸動脈狭窄: 4.9 %,8.8 %,4.8 %
頸動脈プラーク: 19.1 %,32.0 %,18.7 %
上腕-足首血圧比(ABI)<0.9: 8.6 %,7.0%,5.1 %
平均ABI: 0.89,0.91,0.97
間欠性跛行: 6.5 %,5.1 %,3.4 %
CeVD患者のサブグループごとの対象背景をみると,「TIAのみ」の患者は「脳卒中のみ」の患者にくらべて危険因子の保有率が高かった(治療中高血圧: 「TIAのみ」83.5 % vs. 「脳卒中のみ」82.0 %[P=0.02],治療中高脂血症: 65.1 % vs. 52.1 %[P<0.0001],心房細動: 14.7 % vs. 11.9 %[P<0.0001],肥満: 26.7 % vs. 20.8 %[P<0.0001])。
◇ 地域ごとの検討
・ 治療中高血圧者の割合: 最低は日本(74.4 %),最高は東ヨーロッパ(87.6 %)。
・ 治療中糖尿病者の割合: 最低はオーストラリア(18.5 %),最高は中東(46.6 %)。
・ 心房細動の割合: 北アメリカ(16.0 %)や東ヨーロッパ(15.7 %)で高く,アジア(7.0 %)や日本(8.6 %)で低かった。
・ 喫煙率: 東ヨーロッパで高かった(17.8 %)。
・ 間欠性跛行の割合: 西ヨーロッパで高かった(8.0 %)。
・ ABI<0.9の割合: 西ヨーロッパ(10.6 %),東ヨーロッパ(10.5 %)で高かった。
◇ CeVD患者の治療状況
全対象(68,236人),CeVD患者(18,992人),およびCeVDやPADの合併のないCAD患者(30,414人)における各薬剤の服用率はそれぞれ以下のとおり。
抗血小板薬: 78.6 %,81.7 %,86.3 %
抗凝固薬: 12.3 %,17.3 %,11.2 %
降圧薬: 91.3 %,87.9 %,94.4 %
脂質低下薬: 75.1 %,61.2 %,82.4 %
CeVD患者のサブグループ間の比較では,「TIAのみ」で「脳卒中のみ」よりも降圧薬および脂質低下薬の服用率が有意に高かった(P<0.05)。
◇ 日本におけるCeVD患者の治療状況
CeVD患者全体(18,992人)と日本人CeVD患者(2,035人)における各薬剤の服用率はそれぞれ以下のとおり。
抗血小板薬: 81.7 %,82.7 %
抗血栓薬(いずれかの抗凝固薬または抗血小板薬): 92.6 %,87.5 %
降圧薬: 87.9 %,75.0 %
脂質低下薬: 61.2 %,39.2 %
日本におけるアスピリン,抗血栓薬,降圧薬,脂質低下薬の服用率は,検討された9地域(北アメリカ,南アメリカ,西ヨーロッパ,東ヨーロッパ,中東,アジア,日本,オーストラリア)のなかでもっとも低かった。
◇ 結論
REACH Registryに登録された世界44か国の脳血管疾患(CeVD)患者を対象に,症状や危険因子の保有状況について検討を行った。その結果,CeVD既往のある人は危険因子の保有状況が悪く,合併症をもつ人も多かった。危険因子の状況,および治療状況は地域によって異なっていたが,全体に治療は十分ではないと考えられた。日本人CeVD患者の抗血栓薬,降圧薬,脂質低下薬の使用率はもっとも低かった。