脂質異常症

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  重要なのは,HDL-C以外の脂質をなるべく低く保つこと  
「危険因子」という用語を生み出したFramingham Heart Study(FHS)。危険因子を是正すれば心血管疾患を予防できるというメッセージは世界中の臨床に大きな影響を与えた。研究開始から60年が過ぎようとしている今,FHSのディレクターであるDaniel Levy, MDがインタビューに答えてくれた。
(インタビュー: 2007年4月)

―FHSは1970年代にHDL-Cは冠動脈疾患(CAD)に対し防御的である(protective)であると発表しましたが,どのくらいの値が好ましいのでしょうか。

 FHSの初期の研究やその他の研究から,HDL-Cが心血管疾患リスクと逆相関することは分かっていました。つまり,HDL-Cが高い人は心血管疾患を発症しないことが比較的多いのですが,逆に低いと発症率が高いのです。心疾患に対し防御的効果がみられるHDL-C値はおよそ60 mg/dL以上で,リスクになるのは男性で約40 mg/dL未満,女性で50 mg/dL未満です。

―トリグリセライド(TG)と心血管疾患との関連についてはどのような知見が得られていますか。

 TGは脂質の一種で,値が高い人は心血管疾患のリスクが高くなる傾向があります。TGとHDL-Cの間には興味深い関連がみられます。それはTGが高いとHDL-Cが低い傾向にあり,逆にHDL-Cが高いとTGが低いことがよくあります。

 TG高値例はリスクが増大すると言いましたが,他の危険因子で調整するとリスクが消失するという報告もありますし,調整後も予測因子となる報告もあります。例えば,高TG例には糖尿病患者が含まれていることが多く(Diabetes Care 2002; 25: 989-94. pubmed),またHDL-Cが極めて低く高TGの場合,現在は糖尿病でなくても糖尿病を発症するリスクが上昇するのです。ですから,TGが低くHDL-Cが高い人は心疾患発症リスクが非常に小さく,逆にHDL-Cが低くTGが高い人はリスクが高くなると考えていいと思います。

―心血管疾患の予測能が最も高い脂質は何でしょうか。

 予測能の高さでは“悪玉”コレステロールであるLDL-Cですが,HDL-Cは防御因子です。おおまかに言って,LDL-Cが1 mg/dL上昇するごとに心疾患リスクは1 %,HDL-Cが1 mg/dL低下するごとにリスクは2 %高くなるのです。これらに加え,予測能は下がりますがTGにもリスクを予測する傾向がみられます。

―1980年代に総コレステロール(TC)/HDL-C比>6,LDL-C/HDL-C比>4がCADの高リスクであると発表しました。

 TCは心疾患と正の相関関係,HDL-Cは負の相関関係にありますので,この2つの脂質比はいずれか一方の脂質値でみるよりも予測能が高い傾向にあります。例えばTC 200 mg/dL,HDL-Cが50 mg/dLの場合,TC/HDL-C比は4ということになり,集団のほぼ平均レベルです。できればこの比率は3.5以下が望ましいのですが,5~6,さらにはそれ以上の人も少なくありません。この比が低いほどCADの発症リスクは小さくなります。

 しかし,心血管疾患リスクに大きく寄与している脂質がLDL-Cであることが今や分かっており,LDL-Cを下げることでリスクが低下することが明らかになっていますので,米国の現行のガイドラインでは,LDL-Cを加療の基礎としており脂質比には拠っていません。

―LDL-Cが100 mg/dL未満である場合は,どうすべきでしょうか。

 心疾患に罹患しているかどうかによります。一般にLDL-Cが低いほど予後は良好です。CADの場合は,LDL-Cを70 mg/dL未満にすると予後が改善するというエビデンスがありますので,できれば70 mg/dL未満に下げる努力をしてほしいと思います。

―脂質に関するFHSのキーメッセージは何でしょうか。

 TCやLDL-Cが低く,HDL-Cが高いほど心疾患を発症するリスクは小さいということです。できれば,HDL-Cを除く脂質値をできるだけ低く保っておきたいものです。


― Framingham Heart Study 関連文献 (2000年以降) ―

  • 脂質異常症発症の生涯リスク(30年の観察結果)
    Lifetime risk for developing dyslipidemia: the Framingham Offspring Study. Am J Med. 2007; 120: 623-30. pubmed
  • apo B/apo A-I 比の冠動脈疾患予測能は既存の脂質マーカーと同等(Framingham Offspring Study)■Worldwide 文献ニュース■
    Clinical utility of different lipid measures for prediction of coronary heart disease in men and women. JAMA. 2007; 298: 776-85.pubmed
  • 至適アテローム生成脂質リスクプロフィールの探索
    Search for an optimal atherogenic lipid risk profile: from the Framingham Study. Am J Cardiol 2006; 97: 372-5.pubmed
  • コレステロールと認知機能
    Serum cholesterol and cognitive performance in the Framingham Heart Study. Psychosom Med 2005; 67: 24-30.pubmed
  • アルツハイマー病の危険因子としての総コレステロール値
    Plasma total cholesterol level as a risk factor for Alzheimer disease: the Framingham Study. Arch Intern Med 2003; 163: 1053-7.pubmed
  • 糖尿病患者ではレムナント様リポ蛋白コレステロール値とトリグリセライド値が上昇している
    Elevated remnant-like particle cholesterol and triglyceride levels in diabetic men and women in the Framingham Offspring Study. Diabetes Care 2002; 25: 989.pubmed
  • レムナント様リポ蛋白コレステロールは女性の独立した心血管疾患リスクである
    Remnant-like particle (RLP) cholesterol is an independent cardiovascular disease risk factor in women: results from the Framingham Heart Study. Atherosclerosis 2001; 154: 229-36.pubmed


  日本のプライマリーケア医に伝えたいこと

  高血圧

  脂質異常症

  メタボリックシンドローム(MetS)

  慢性腎疾患(CKD)

  新しいトピックス


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