メタボリックシンドローム
conclusion2
減量できれば,いろいろな危険因子の改善もみられるはず
(インタビュー: 2007年4月)
―FHSでは2006年に第2世代のメタボリックシンドローム(MetS)の有病率を男性24 %,女性20 %と発表していますが,MetSをどう捉えていますか。
MetSは実際には『症候群』ではなく,複数の危険因子が集積した状態の定義です。
過体重の人でTCやTGが高く,HDL-Cが低く,血圧が高く,糖尿病例が多いことは,数十年前から分かっていました。これらの集積を便宜的にMetSと呼んでいるのですが,実際には「過体重の人に危険因子がより高頻度に生じている」ということに過ぎません。
米国および世界中で肥満が増加していますので,MetSは次第に世界的な問題になりつつあります。若い世代に糖尿病や高血圧,脂質異常症の予備軍ともいえる肥満が増加していることは,過去40年間に成し遂げた心血管疾患の劇的な減少を台無しにするのではないかと考えられています。
―MetSの寄与因子は何でしょうか。どのようにMetSに対処すればいいと思いますか。
肥満の他に,インスリン抵抗性や糖尿病,高血圧,TG高値やLDL-C高値などの脂質異常症が寄与因子と考えられます。これらの要素のうち,肥満とインスリン抵抗性,糖尿病は好ましくない方向に進みつつあります。改善のための努力をすべき重要な要素です。食生活,運動を含む生活習慣を改善し,BMIがこれ以上増加する可能性を低減していかなくてはなりません。
一方で,血圧や脂質レベルに関する努力はかなり実を結んできていますが,まだ改善の余地はあります。体重は至適レベルまで減量する努力ができると思います。減量できればMetSに関連するすべての危険因子が改善されるはずです。脂質や血圧のように良好に管理されMetSから遠ざかるベクトルと,肥満のようにMetSに近づくベクトルがあり,現在は近づく力が極めて強いのです。
―肥満の増加の原因は何でしょうか。
米国では小児肥満が過去25年間で3倍近くに増加,成人の肥満率は過去30年でほぼ2倍になっていますが,原因はまだ解明できていません。
肥満は「朱に交われば赤くなる」 N Engl J Med. 2007; 357: 370-9. →Worldwide 文献ニュース
食生活の変化が一因だと考えられていますが,その他の生活習慣の変化,特に小児の運動量が少なくなっていることや,テレビやコンピュータに費やす時間が多くなっていることも関係していることは間違いないと思います。
肥満はある種の栄養不良であると考えている人たちもいます。ファーストフードのように肥満を促進させると考えられる非常に高カロリーながら栄養素に乏しいものを食べている子どもたちが少なくありません。また糖分の多いソフトドリンクも気になります。
炭酸飲料の摂取はメタボリックシンドロームと関連 Circulation. 2007; 116: 480-8. →Worldwide 文献ニュース
―Framingham Risk ScoreにはBMIが入っていません。
BMIを入れなかったのは,年齢や性別,血圧,総コレステロール,HDL-C,LDL-C,糖尿病,喫煙と一緒にBMIをリスク予測モデルに入れて多変量解析を行ったところ,BMIは有意な予測因子にならなかったからです。しかし,リスクの高い人を治療する際に過体重に対処する重要性を忘れてはいけませんし,降圧,良好な脂質プロファイル,糖尿病の予防のための生活習慣改善法としての減量の重要性を低くみるべきでもありません。肥満がリスク予測モデルに統計的に有意な因子として含まれていなくても,危険因子を改善し心血管疾患を予防する上で体重コントロールは非常に重要な要素なのです。
― Framingham Heart Study 関連文献 (2000年以降) ―
- 肥満は「朱に交われば赤くなる」 →■Worldwide 文献ニュース■
The spread of obesity in a large social network over 32 years. N Engl J Med. 2007; 357: 370-9. - 炭酸飲料の摂取はメタボリックシンドロームと関連 →■Worldwide 文献ニュース■
Soft drink consumption and risk of developing cardiometabolic risk factors and the metabolic syndrome in middle-aged adults in the community. Circulation. 2007; 116: 480-8. - 内臓脂肪組織は皮下脂肪よりもメタボリックの危険因子と強く関連する
Abdominal visceral and subcutaneous adipose tissue compartments: association with metabolic risk factors in the Framingham Heart Study. Circulation 2007; 116: 39-48. - γ-GTPとメタボリックシンドローム,心血管疾患,死亡
Gamma glutamyl transferase and metabolic syndrome, cardiovascular disease, and mortality risk: the Framingham Heart Study. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2007; 27: 127-33. - 脳卒中危険因子としてのメタボリックシンドロームと2型糖尿病の比較
Metabolic syndrome compared with type 2 diabetes mellitus as a risk factor for stroke: the Framingham Offspring Study. Arch Intern Med 2006; 166: 106-11. - small LDL粒子数の増加:メタボリックシンドロームの著明な特徴
Increased small low-density lipoprotein particle number: a prominent feature of the metabolic syndrome in the Framingham Heart Study. Circulation 2006; 113: 20-9. - インスリン抵抗性,メタボリックシンドロームと心血管イベント発症
Insulin resistance, the metabolic syndrome, and incident cardiovascular events in the Framingham Offspring Study. Diabetes 2005; 54: 3252-7. - CRP,メタボリックシンドロームと心血管イベント予測
C-reactive protein, the metabolic syndrome, and prediction of cardiovascular events in the Framingham Offspring Study. Circulation 2004; 110: 380-5.
メタボリックシンドローム(MetS)