[編集委員が選ぶ注目文献] 複数の血圧指標を組み合わせると心血管疾患リスク予測能が改善(Framingham Heart Study)
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この文献は,「DBPのJカーブ現象」についての長年の疑問にまさに答えてくれました。
高血圧の治療をするとき,SBPもDBPも両方下がっているのであればあまり問題はないが,SBPが高いままDBPが下がってくるような場合には注意すべき,ということだと思います。 桑島 巌氏 (東京都健康長寿医療センター) |
Franklin SS, et al.
Single versus combined blood pressure components and risk for cardiovascular disease: the Framingham Heart Study.
Circulation. 2009; 119: 243-50.
- 目的
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高血圧は心血管疾患の確立された危険因子だが,血圧指標のなかでどの指標が優れるかについては結論が出ていない。歴史的には,まず拡張期血圧のほうが予測能に優れるとされ,収縮期血圧の臨床的意義がみとめられたのは1970,80年代になってからである。1990年以降は,動脈壁の硬さを反映する脈圧,末梢血管抵抗や心拍出量を反映する平均血圧など,より生理学的な情報をもたらす指標にも注目が集まっている。これらの指標と心血管疾患との相関度は年齢によって異なることがわかってきており,さらに複数の指標を組み合わせたほうが予測能がよくなるという報告もある。
そこで,Framingham Heart Studyのデータを用い,複数の血圧指標を組み合わせたほうが単独の指標よりも心結果疾患リスクの予測能が上がるか,また「収縮期血圧+拡張期血圧」と「脈圧+平均血圧」のどちらが予測能に優れるかについて検討した。
- コホート
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Framingham Heart Study,Framingham Offspring Study
Framingham Heart Studyの第3~25回健診に参加した4,760人,およびFramingham Offspring Studyの第1~7回健診,に参加した4,897人の計9,657人のデータのうち,データに不備のない41,524追跡人・年における計1,439件の心血管イベントについて解析。
- 結論
- 複数の血圧を組み合わせた指標(収縮期血圧[SBP]+拡張期血圧[DBP],および脈圧[PP]+平均血圧[MAP])の心血管疾患リスク予測能について,前向き追跡研究による検討を行った。その結果,SBP+DBP,およびPP+MAPは,いずれも単独の血圧にくらべ,有意に優れた心血管疾患リスク予測能を示した。SBP+DBPとPP+MAPの予測能は同等だった。また,SBP,DBP,PP,MAPのうち,DBPのみ,心血管疾患リスクとの関連が非線形的(二次的)であった。これまでに指摘されていたDBPと心血管疾患リスクとのJ字型の関連は,DBP単独というよりは,おもに動脈壁の硬化によるPPの上昇を反映したものだと考えられる。
桑島氏: かねてより,拡張期血圧(DBP)のJカーブ現象,すなわち,DBPが下がりすぎると心血管イベントが増えるのではないかという議論がありました。HOT試験の結果(Lancet. 1998; 351: 1755-62. )からは,DBPを85 mmHg以下に下げたときのリスク上昇はないことが示されています。しかしそれ以下,たとえば80 mmHg以下に下げるとどうかというと,まだ決着がついていない状況です。
高齢化社会を迎えた今,「DBPが低いということ自体がほんとうにリスクになるのか」という点に非常に興味をもっています。DBPだけの影響というよりも,収縮期血圧(SBP)が高いままで加齢によりDBPが下がり,脈圧が上がってくることの影響ではないかと考えていたからです。そこで,まさに私の疑問を検討しているこの文献を選びました。
まず私がもっとも疑問に思っていたDBPのJカーブ現象については,予想通り,「DBP単独というよりは,おもに動脈壁の硬化による脈圧の上昇を反映したものだと考えられる」という結論でした。
臨床現場では,この結果をどのように生かせるでしょうか。DBPだけを見れば,たしかにJカーブは出てくるのですが,降圧薬治療中に「DBPが下がりすぎているのではないか」と心配になったら,同時にSBPも考慮に入れて判断する必要があります。SBP,DBPがどちらも下がっていればあまり問題はありませんが,SBPが高いままDBPが下がってくるようであれば,すなわち脈圧が高く,動脈硬化が進行している状態であり,注意を要するということです。
PP+MAPの組み合わせにより,SBP+DBPと同程度の予測能が得られたというのも興味深い結果です。複数の要因をあわせて見るほうが,より正確にリスクを評価できるということですね。たいへん貴重な論文だと思います。
― ほかの編集委員からのコメント ― |
堀 正二氏 (大阪府立成人病センター) 脈圧は「収縮期血圧-拡張期血圧」という式で算出するものなので,SBPやDBPの情報が重複して入っているようにも思ったのですが,脈圧は血圧そのものの指標ではなく,動脈壁の「かたさ」を反映した指標として重要ということなのでしょう。
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大橋 靖雄氏 (東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻生物統計学) SBPとDBP,どちらも大切ということですね。最近,JALS(日本動脈硬化縦断研究)からもSBP,DBP,脈圧,平均血圧の4つの指標を比較した論文を発表しました。脳卒中,および心筋梗塞リスクの予測能が高いのは,SBPと平均血圧という結果でした(抄録はこちら)。
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― epi-c.jpのなかで関連するテーマの文献を読む ―
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【JALS】 高血圧の評価には収縮期血圧がよい
全脳卒中,虚血性脳卒中,心筋梗塞のリスク予測能がもっとも高いのは収縮期血圧および平均血圧だった。
Miura K, et al.; Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study (JALS) Group. Four blood pressure indexes and the risk of stroke and myocardial infarction in Japanese men and women: a meta-analysis of 16 cohort studies. Circulation. 2009; 119: 1892-8. -
【大迫研究】 24時間自由行動下収縮期血圧,平均血圧,拡張期血圧の脳卒中リスク予測能は,脈圧よりも優れる
Inoue R, et al. Predicting stroke using 4 ambulatory blood pressure monitoring-derived blood pressure indices: the Ohasama Study. Hypertension. 2006; 48: 877-82. -
【NIPPON DATA】 高齢男性では,拡張期血圧は心血管死亡の危険因子ではない
Okayama A, et al.; The NIPPON DATA80 Research Group. Age-specific effects of systolic and diastolic blood pressures on mortality due to cardiovascular diseases among Japanese men (NIPPON DATA80). J Hypertens. 2006; 24: 459-62.