[編集委員が選ぶ注目文献] 腎機能低下は心血管疾患の危険因子(JALS)

conclusion2

ここでは,2008年10月~2009年3月にかけて発表された循環器疫学文献のなかから編集委員が選んだ注目文献を,コメントもまじえて紹介する。

CKDは,心血管疾患リスクとして,脂質異常症や高血圧,糖尿病とも関連し,非常に注目されています。
今回の結果から,わが国のガイドラインなどにおいても,CKDの概念を取り込みながら治療戦略を変えていく必要があるでしょう。

寺本 民生氏 (帝京大学医学部内科)

― 文献概要 ―

Ninomiya T, et al.; for the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Group.
Impact of Kidney Disease and Blood Pressure on the Development of Cardiovascular Disease: An Overview From the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study.
Circulation. 2008; 118: 2694-2701.pubmed

目的
腎機能低下と心血管疾患リスクとの関連,および腎機能が低下している人における血圧と心血管疾患リスクとの関連について,地域住民を対象とした10のコホート研究のデータによる検討を行った。
コホート
JALS 0次研究(JALS-ECC: JALS-existing cohorts combine)に参加した21コホートのうち,職域コホート,ならびに発症データ,血清クレアチニン,その他のデータに不備があるコホートを除いた10 の地域コホートの35,153人の個人データをプールした。 平均追跡期間は7.4年間。
結論
腎機能低下と心血管疾患リスクとの関連,および腎機能が低下している人における血圧と心血管疾患リスクとの関連について,地域住民を対象とした10のコホート研究のデータによる検討を行った。その結果,腎機能は心血管疾患の危険因子であることが示された。また,腎機能低下の有無にかかわらず,血圧は心血管疾患リスクと有意な関連を示し,Jカーブ現象はみとめられなかった。

寺本氏: 最近,慢性腎臓病(CKD)がいろいろなところでとりあげられています。「日本人のエビデンス」の必要性が高まっているなか,3万人と大規模な集団で腎機能低下について検討したJALS(日本動脈硬化縦断研究)から,腎機能低下が心血管疾患の危険因子であるこという結果が報告されました。基準となった糸球体濾過量(GFR)<60 mL/分/1.73 m2というのは,CKDの病期分類でいうとステージ3以上に相当します。

臨床の立場から感じるのが,「CKDはとても大きな問題をはらんでいる」ということです。今回の対象は健診を受けた一般地域住民のかたで,CKDの有病率は男性5.2%,女性10.1%でした。一方,脂質異常症患者では,CKDの有病率は約3割にのぼります。また,高血圧や糖尿病でもCKDを合併する割合は高くなります。つまり臨床では,かなりの割合の患者さんで,CKDに注意する必要があるというわけです。腎機能が低下しているのであれば,基礎疾患にかかわらず,きちんと治療を行う必要があります。

このJALSの結果は,わが国のガイドラインなどにおいても,CKDの概念を取り込みながら治療手段や治療戦略を変えていく必要があるというメッセージだと思います。

― ほかの編集委員からのコメント ―

桑島 巌氏 (東京都健康長寿医療センター) 今回の結果では,血圧で調整を行ったうえでも,腎機能低下が心血管疾患の危険因子であるという結果でした。ただし,血圧に対し,腎機能低下はその「結果」でもあるため,心血管疾患のリスク因子としては,この2つはすこし性質が違うと考えたほうがよいかもしれません。腎機能低下の原因が血圧なのか,糖尿病なのかということには非常に興味がありますね。
堀 正二氏 (大阪府立成人病センター) 現在,微量アルブミン尿の検査が保険適応となるのは糖尿病性腎症の場合だけですが,CKDの観点からも微量アルブミン尿は重要です。早期発見,早期予防のためには保険適応としてほしいですね。
大橋 靖雄氏 (東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻生物統計学) 脂質低下薬の臨床試験であるMEGA Studyのサブグループ解析では,GFRの低い人でのみ,心血管疾患抑制効果がみとめられました。つまり,「ハイリスクの人によく効いた」ということで,腎機能低下というのはハイリスク者をスクリーニングする指標としても重要と考えられます。また,1つ強調しておきたいのがクレアチニン測定の問題です。特定健診では検査項目から血清クレアチニンがはずされてしまいましたが,尿検査だけでは腎機能低下者をすべて拾い上げることはできません。クレアチニン測定は安いというメリットもあります。ぜひ復活させてもらいたいと思います。


― epi-c.jpのなかで関連するテーマの文献を読む ―




▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.