[学会報告・日本高血圧学会2012] 久山町研究,NIPPON DATA2010,大迫研究,SESSA,高島研究,端野・壮瞥町研究,田主丸研究,亘理町研究
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第35回日本高血圧学会総会は, 2012年9月20日(木)~22日(土)の3日間,名古屋にて開催された。恒例となっているランチョンセミナーの減塩弁当として,今年は名古屋名物のひつまぶし,味噌カツやDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食が提供された。
ここでは,学会で発表された疫学研究の一部を紹介する。
久山町研究 | — | 白衣高血圧者および仮面高血圧者では頸動脈硬化が進展している |
NIPPON DATA2010 | — | 一般国民では,野菜・果物の不足やお酒の飲みすぎが高血圧につながるという認識が低い |
大迫研究 | — | アルドステロン/レニン比高値は,ナトリウム摂取量の高い人でのみ高血圧発症と関連 |
大迫研究 | — | 喫煙者と同居する女性は脳卒中発症リスクが高い |
SESSA | — | 日本人一般男性集団において,baPWV高値は冠動脈石灰化と関連する |
高島研究 | — | baPWV高値は,血圧とは独立に循環器疾患および脳卒中発症を予測する |
端野・壮瞥町研究 | — | γ-GTP高値は高血圧発症の予測因子 |
端野・壮瞥町研究 | — | 脳梗塞発症者の経時的な血圧変化は,非発症者とは異なるパターンを示す |
端野・壮瞥町研究 | — | 尿酸値の増加は,腎機能の長期的な低下に関連する |
田主丸研究 | — | 血漿エンドセリン-1高値は高血圧発症リスクと関連 |
亘理町研究 | — | 震災後,行政職員の血圧は一般住民よりも著明に増加していた |
亘理町研究 | — | 長時間労働は肥満と,職業的なストレスは高血圧と関連 |
[久山町研究] 白衣高血圧者および仮面高血圧者では頸動脈硬化が進展している
発表者: 九州大学・福原 正代 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 白衣高血圧および仮面高血圧と,頸動脈硬化との関連を検討。 | |
コホート・手法: | 久山町研究の2007~2008年の健診を受診した2915人(断面解析)。健診時血圧値と家庭血圧値(朝に測定)をもとに,対象者を4つのカテゴリー(正常血圧,白衣高血圧,仮面高血圧,持続性高血圧)に分類した。 (久山町研究へ) | |
結果: | 平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)値,および最大IMT値は,いずれも白衣高血圧群,仮面高血圧群,持続性高血圧群のすべてで正常血圧群に比して有意に高かった(多変量調整後)。IMT肥厚(1 mm以上),および頸動脈狭窄のオッズ比についても,白衣高血圧群,仮面高血圧群,持続性高血圧群のすべてで正常血圧群に比して有意に高くなっていた。 |
[NIPPON DATA2010] 一般国民では,野菜・果物の不足やお酒の飲みすぎが高血圧につながるという認識が低い
発表者: 滋賀医科大学・宮川 尚子 氏 (9月20日,ポスター)目的: | 高血圧の原因となる生活習慣が正しく認識されているかどうかについて,地域的な偏りのない国民代表集団を対象に検討。 | |
コホート・手法: | 全国300地区における2010年の国民健康・栄養調査とあわせて実施された「循環器病の予防に関する調査(NIPPON DATA2010)」に参加した2898人(断面解析)。 高血圧の原因となる生活習慣の認識率については,自己記入式質問票により,9つの選択肢(正答6つ: 肥満,運動不足,塩分のとりすぎ,野菜や果物の不足,お酒の飲みすぎ,睡眠不足,およびダミー3つ)のなかから高血圧の原因として正しいと思うものをすべて選択させることで調査した。 | |
結果: | 高血圧の原因となる生活習慣としての認識率は,高い順に,「塩分のとりすぎ」90.3%,「肥満」82.2%,「運動不足」68.0%,「お酒の飲みすぎ」61.4%,「野菜や果物の不足」42.3%,「睡眠不足」41.1%。年代別にみると,若年者ほど認識率が低かったのは「野菜や果物の不足」「お酒の飲みすぎ」で,逆に高齢者ほど認識率が低かったのは「塩分のとりすぎ」「肥満」であった。性別および地域別の検討では,大きな差はみとめられなかった。 |
宮川尚子氏のコメント 高血圧の原因となる生活習慣を正しく認識することは,高血圧の予防・管理を適切に行うための第一歩として大切です。今回の調査により,「塩分のとりすぎ」はよく知られていることがわかりましたが,『高血圧治療ガイドライン2009』でも示されている「野菜や果物の不足」,「お酒の飲みすぎ」,「運動不足」の認識率は,まだ低いことがわかりました。今後は認識率と血圧値の関連についても検討を進める予定です。 |
[大迫研究] アルドステロン/レニン比高値は,ナトリウム摂取量の高い人でのみ高血圧発症と関連
発表者: 東北大学・佐藤 倫広 氏 (9月20日,高得点演題[臨床])目的: | 血漿アルドステロン濃度/血漿レニン活性比(ARR)と高血圧発症リスクとの関連が,ナトリウム摂取量によって異なるかどうかを検討。 | |
コホート・手法: | 大迫研究の611人を平均7.2年間追跡。 ナトリウム摂取量については,食物摂取頻度調査票(FFQ)により調査した。 (大迫研究へ) |
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結果: | 自然対数変換後のARR(lnARR)が1 SD上昇するごとの高血圧発症のハザード比は,有意に高値であった。高血圧発症者では,非発症者にくらべて血漿レニン活性が有意に低値であったが,血漿アルドステロン濃度に差はみとめられなかった。ナトリウム摂取量が中央値(4097.4 mg/日[食塩相当量10.4 g/日])以上/未満の2群に分けて検討すると,ナトリウム摂取量が中央値以上の群でのみ,lnARRが1 SD上昇するごとの高血圧発症のハザード比が有意に高値であった(ハザード比1.23)。 |
[大迫研究] 喫煙者と同居する女性は脳卒中発症リスクが高い
発表者: 東北大学病院・井上 隆輔 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 女性における家庭での受動喫煙と脳卒中発症リスクとの関連について,家庭血圧値を用いて検討。 | |
コホート・手法: | 大迫研究。30歳以上の女性で,喫煙しておらず正常家庭血圧値の764人を平均12.9年間追跡。 同居家族の喫煙状況により,対象者を「なし(252人)」「過去にあり(63人)」「現在あり(449人)」の3つのカテゴリーに分類した。 (大迫研究へ) |
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結果: | 同居家族の喫煙が「なし」の人に比して,「現在あり」の人の脳卒中発症のハザード比は6倍近くと有意に高かった。「過去にあり」の人でもハザード比が高い傾向がみられたが,有意差はなし。病型別に検討すると,脳梗塞についても同様の傾向がみられたが,有意なリスク増加はみられなかった。脳出血については有意な関連なし。 |
井上隆輔氏のコメント 家庭血圧正常の非喫煙女性では,同居家族の喫煙が脳卒中発症と関連することが示されました。これは,受動喫煙と脳卒中発症が関連することを示唆する,国内では初めての報告です。また,過去喫煙者と同居していた女性の脳卒中発症リスクも,有意ではありませんが,わずかに高い傾向がありました。家庭内でも,受動喫煙対策は重要であると考えられます。 |
[SESSA] 日本人一般男性集団において,baPWV高値は冠動脈石灰化と関連する
発表者: 滋賀医科大学・鳥居 さゆ希 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)と冠動脈石灰化(CAC)との関連を検討。 | |
コホート・手法: | 滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA)。滋賀県草津市住民より無作為に抽出された40~79歳の男性987人(断面解析)。 CAC陽性の定義はAgatston score≧10とした。 |
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結果: | baPWV値の四分位(Q1: もっとも低い~Q4: もっとも高い)によるカテゴリー間で,CAC陽性率はQ1からQ4へと増加するほど有意に上昇した。また,CAC陽性の多変量調整オッズ比を求めると,Q2,Q3,Q4のいずれにおいても有意な上昇がみとめられるとともに,baPWVが高いほどオッズ比が高くなるという有意で直線的な関連がみられた。以上より,一般人男性では,baPWVにより評価した動脈壁硬化がCACの存在と強く関連することが示された。 |
鳥居さゆ希氏のコメント 今回の結果から,日本をはじめアジアで動脈壁硬化の指標として広く用いられている上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)の上昇が,冠動脈硬化の予測につながる可能性が示されました。baPWVは欧米において主流であるcfPWVにくらべて簡便な検査ですので,臨床の場のみならず,健診など一般集団においても,冠動脈疾患のリスク評価指標として活用できるかもしれません。 |
[高島研究] baPWV高値は,血圧とは独立に循環器疾患および脳卒中発症を予測する
発表者: 滋賀医科大学・高嶋 直敬 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)*と循環器疾患発症リスクとの関連を検討。 | |
コホート・手法: | 高島研究。滋賀県高島市在住の20歳以上の4164人を6.5年間(中央値)追跡。 baPWV値により,対象者を低値(<14.0 m/秒),中位(14.0~17.9 m/秒),高値(≧18.0 m/秒)の3つのカテゴリーに分類した。 |
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結果: | baPWVが高いほど循環器疾患発症および脳卒中発症のハザード比が高い有意な傾向がみとめられ,低値群に対する高値群の発症ハザード比は,循環器疾患で約9倍,脳卒中で約6倍であった(収縮期血圧を含む多変量調整後)。心筋梗塞発症については,baPWVとの有意な関連はみとめられず。 |
高嶋直敬氏のコメント 動脈硬化の非侵襲的な指標としては,欧米でおもに使用されているcfPWVと,本邦を中心に使用されているbaPWVがあります。今回の結果から,一般地域住民において,これまでに多くの報告があるcfPWVと同様に,baPWVでも将来の循環器疾患発症を予測できることが示唆されました。このことは,一般住民における脳卒中などの循環器疾患のリスク評価指標としてのbaPWVの有用性を示唆するものであると考えます。 |
[端野・壮瞥町研究] γ-GTP高値は高血圧発症の予測因子
発表者: 札幌医科大学・大西 浩文 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 血清γ-GTP値と高血圧発症リスクとの関連について,肥満の有無も考慮に入れて検討。 | |
コホート・手法: | 端野・壮瞥町研究の1994年の健診を受診した正常血圧1000人を2007年まで最大13年間追跡。 γ-GTP値の四分位により,対象者を男女別に4つのカテゴリー(Q1: もっとも低い~Q4: もっとも高い)に分類した。 (端野・壮瞥町研究へ) |
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結果: | γ-GTP値が高いカテゴリーほど,高血圧の累積発症率が高かった。高血圧発症のハザード比は,多変量調整後も,Q1に比してQ3およびQ4で有意に高くなっていた。以上の結果は,男女別に検討しても同様であった。肥満の有無による層別化解析を行うと,BMIが25 kg/m2未満の人では,男性のQ4,女性のQ3およびQ4においてQ1に比した有意な高血圧発症ハザード比の増加がみとめられたが,BMIが25 kg/m2以上の人では,γ-GTP値による有意差はみとめられなかった。 |
大西浩文氏のコメント 今回の結果から,γ-GTPが飲酒の有無とは独立して高血圧罹患と関連することが示されました。γ-GTPは,アルコール摂取量のみならず,脂肪肝・インスリン抵抗性・酸化ストレス亢進などのマーカーとしても有用である可能性があります。γ-GTPと高血圧罹患との関連はとくに非肥満者で強く,Q4群では肥満者と同等の高血圧リスクがみられました。非肥満者は,特定保健指導の対象とはならず「情報提供」を受けるにとどまりますが,以上の結果より,非肥満者のなかから高血圧罹患のリスクが高い人をスクリーニングするために,γ-GTPが有用である可能性が考えられました。 |
[端野・壮瞥町研究] 脳梗塞発症者の経時的な血圧変化は,非発症者とは異なるパターンを示す
発表者: 製鉄記念室蘭病院・三俣 兼人 氏 (9月21日,高得点演題[疫学])目的: | 脳梗塞発症者における発症前の血圧値の経時的変化について検討するため,コホート内症例対照研究を実施。 | |
コホート・手法: | 端野・壮瞥町研究の1994年の健診を受診した1925人を平均11.6年間追跡。 この間に脳梗塞を発症した126人を脳梗塞発症群,種々の危険因子を発症者とマッチさせた630人を脳梗塞非発症群として,1994~2006年の間に対象者が受診した健診時の血圧値データを用いて混合効果モデル*による時系列解析を行った。 (端野・壮瞥町研究へ) |
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結果: | 観察期間中の収縮期血圧(SBP)は,非発症者ではベースラインから約6年後までほとんど上昇しなかったのに対し,発症者では継続的に上昇していた。混合効果モデルによる解析で,脳梗塞発症者と非発症者のあいだでSBPの経時的変化パターンに有意な差があることが示された。一方,観察期間中の拡張期血圧(DBP)は,非発症者では継続的に低下していたのに対し,発症者ではあまり低下が進まなかった。混合効果モデルによる解析で,脳梗塞発症者と非発症者のあいだでDBPの経時的変化パターンに有意な差があることが示された。 |
三俣兼人氏のコメント 今回の研究では,経時的な血圧変化と脳梗塞の関連を示すことができました。この結果から,ベースラインの血圧だけでなく,その後の時間経過に伴う血圧変化をとらえることによって,さらに脳梗塞リスクの高い対象をスクリーニングできる可能性が示唆されます。また,今回の研究で使用した混合効果モデルは,観察研究を行う際にしばしば問題となる欠損値に対して,優れた処理能力を有する統計モデルであると考えられました。 |
[端野・壮瞥町研究] 尿酸値の増加は,腎機能の長期的な低下に関連する
発表者: 札幌医科大学・赤坂 憲 氏 (9月22日,ポスター)目的: | 尿酸値と腎機能との関連について,それぞれの経年的変化も含めて検討。 | |
コホート・手法: | 端野・壮瞥町研究。壮瞥町の2002年と2008年の健診を受診した445人。 (端野・壮瞥町研究へ) | |
結果: | 2002年時,および2008年時の尿酸値と推算糸球体濾過量(eGFR)との相関をみると,いずれも男性では有意な結果は得られなかったが,女性では有意な負の相関がみとめられた。2002~2008年の尿酸値の変化量(Δ尿酸)とeGFRの変化量(ΔeGFR)との相関をみると,男女ともに有意な負の相関がみとめられ,女性のほうが強い相関を示していた。多変量重回帰分析によりΔeGFRに関連する因子を検討した結果,Δ尿酸のみが有意な因子として見出された。 |
赤坂憲氏のコメント 今回の結果から,尿酸値のコントロールの重要性があらためて示されました。断面的な解析では,女性でのみ有意な関連がみられましたが,これには,壮瞥町の男性のアルコール摂取量が女性にくらべてかなり多いことが影響している可能性があります。尿酸値は,特定健診では必須項目でなくなってしまったものの一つです。しかし,必須の項目だけでは把握できないことも多いため,われわれは,研究費と壮瞥町の予算の両方から費用を持ち出すかたちでさまざまな追加項目の測定を行っており,今後も検討を続けていきたいと考えています。 |
[田主丸研究] 血漿エンドセリン-1高値は高血圧発症リスクと関連
発表者: 久留米大学医学部・足達 寿 氏 (9月20日,特別企画2)目的: | 血漿エンドセリン-1(ET-1)*濃度と高血圧発症リスク,および死亡リスクとの関連を検討。 | |
コホート・手法: | 田主丸研究。1999年に福岡県浮羽群田主丸町(現・田主丸町)の健診を受診した正常血圧者814人を7年間追跡。 (Seven Countries Studyへ) | |
結果: | ベースライン時の平均ET-1値は,高血圧発症者で非発症者よりも高い傾向であったが,有意差はなし。ベースライン時のET-1値の四分位(Q1: もっとも低い~Q4: もっとも高い)で検討すると,Q4における高血圧発症のオッズ比(多変量調整)は,Q1に比して有意に高かった。死亡リスクとの関連をみると,Q4における全死亡のハザード比(多変量調整)は,Q1に比して有意に高かった。癌死亡および心血管疾患死亡についてはET-1値による有意差はみられなかった。 |
足達寿氏のコメント 一般住民を対象に,血漿エンドセリン-1と高血圧発症との有意な関連を縦断的に示した初めての研究です。当初の予想とは異なり,血圧値とエンドセリン-1値との関連は直線的ではありませんでした。エンドセリン-1は,測定に必要な採血量が多く,健診時,住民の方々にはやや不評でしたし,測定費用も非常に高いことから,一般住民健診で測るようなマーカーとしては残念ながらあまり適さないといわざるをえません。2009年に実施した最新の大規模健診の結果から,今後も,このような新しい因子を含めていろいろな解析を進めていきたいと考えています。 |
[亘理町研究] 震災後,行政職員の血圧は一般住民よりも著明に増加していた
発表者: 東北労災病院・金野 敏 氏 (9月21日,シンポジウム6)目的: | 大規模な自然災害は,直接的な人的被害のみならず,住居や職場の喪失,家族や知人との死別,生活環境の変化や復旧作業の負担など,さまざまな肉体的・精神的ストレスをもたらすが,これらによる健康被害について長期に観察した研究報告は多くなく,また,被災後長期にわたって復旧作業や一般住民への支援業務にあたる自治体職員への影響を検討した研究もほとんどない。そこで,東日本大震災による一般住民および自治体職員の健康状態への影響について,町の総面積の48%が津波で浸水するなど甚大な被害を受けた宮城県亘理町において,震災前および震災から4か月目以降に実施された健診の結果を用いた検討を行った。 | |
コホート・手法: | 亘理町研究。2010年度および2011年度(7~11月)の特定健診を受診した一般住民1776人(平均年齢62.7歳)および行政職員240人(平均年齢39.6歳)。 2011年度は睡眠状態,疲労度・抑うつ度に加え,自宅の被災状況や周囲との死別状況などについてもアンケート調査を行った。 |
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結果: | 震災前後にかけての,行政職員の収縮期血圧値および拡張期血圧値の年齢・性別調整後の変化(それぞれ+11.3/+7.8 mmHg)は,一般住民(−1.9/+1.1 mmHg)にくらべて著明な増加を示しており,このほかBMI,LDL-Cについても行政職員のほうが一般住民よりも有意に悪化していたが,不眠スコアは一般住民のほうが有意に高い値を示した。男女別にみてもほぼ同様の結果であったが,とくに女性では行政職員の脈圧が大きく増加していた。また,震災発生前後の各1年間において,脳・心臓疾患および心因性疾患による行政職員の休職状況を比較すると,いずれも震災後は明らかに件数が増加しており,震災の影響が示唆される結果となった。行政職員の平均残業時間は2011年3月に前年の約10倍以上と顕著に増加していた。 |
金野敏氏のコメント 今回のような大規模な災害では,被災した地域一般住民の健康問題に注目が集まりやすくなりますが,自身も被災者でありながらストレス環境下で復興作業に長期間従事する行政職員の方々の健康障害のリスクが,想像以上に高くなっている可能性が示される結果となりました。被災地域の他の自治体でも同様の現象が起こっている可能性が高く,今後も注意深く健康状態のモニタリングを継続していく必要があると考えられます。 |
[亘理町研究] 長時間労働は肥満と,職業的なストレスは高血圧と関連
発表者: 東北労災病院・金野 敏 氏 (9月20日,ポスター)目的: | 長時間労働,および技能が活用されないという職業的なストレスが肥満,高血圧,糖尿病および脂質異常症と関連するかどうかを検討。 | |
コホート・手法: | 亘理町研究。2010年度の特定健診を受診した宮城県亘理町の一般住民3429人のうち,就業している1293人(横断研究)。 技能の活用度については,米国の国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の職業ストレス調査票より抜粋した3つの質問(学校で学んだ技術や知識を仕事に生かせているか,自分の得意なことを生かす機会があるか,過去の経験や訓練から得られた技術を仕事で使う機会があるか)の回答を点数化(ほとんどない=1点~非常によくある=5点)して合計点数を算出し,対象者を三分位によるカテゴリー(技能の活用度が低い[3~5点]/中程度[6~9点]/高い[10~15点])に分類した。 |
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結果: | 1週間の労働時間が40時間未満の人にくらべ,40~49時間の人,および50時間以上の人では,それぞれ肥満のオッズ比が有意に高かったが,高血圧,糖尿病,脂質異常症については有意差はなかった。また,技能の活用度がもっとも高いグループの人にくらべ,技能の活用度がもっとも低いグループの人では,高血圧のオッズ比が有意に高かった。肥満,糖尿病,脂質異常症についてはグループ間で有意差はみられなかった。 |
金野敏氏のコメント さまざまな職種を含む一般住民の集団においても,長時間の労働や,技能の低活用がそれぞれ肥満と高血圧の危険因子となりうることが示唆されました。今回の対象者は自治体の特定健診受診者であり,農業などの自営業の方も多く,会社員の方とくらべると労働時間に関する自由度は比較的高いと考えられますが,それでもやはりこのような関連がみとめられたというのは興味深い結果だと思います。 |