[編集委員が選ぶ注目文献] 1988~2008年にかけ,米国の血圧コントロール率は27.3%→50.1%と改善(NHANES)

ここでは,2010年2月〜8月にかけて発表された循環器疫学文献のなかから編集委員が選んだ注目文献を,コメントもまじえて紹介する。

米国の高血圧患者の血圧コントロール率は,2008年までに大きく改善し,約50%に達しました。ただし,若い人ではコントロール率が低く,自分が高血圧であるという認識も低いことがわかりました。
高齢者にくらべて若い人の管理の状況が良くないというのは,日本でも同じです。

桑島 巌氏 (東京都健康長寿医療センター)

— 文献概要 —

Egan BM, et al.
US trends in prevalence, awareness, treatment, and control of hypertension, 1988-2008.
JAMA. 2010; 303: 2043-50.pubmed

目的
米国において,高血圧は広くみられる疾患で,約6500万人が罹患しているとされる。有病率や服薬率,コントロールの状況などの経時的な変化についてはこれまでにも報告があるが,年齢調整の限界や,高血圧の定義自体にも変遷があったことで調査年代間の比較が難しいなどの問題があった。そこで,米国健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の最新のデータ(2007〜2008年)も用い,1988年から2008年にかけての高血圧の有病率,認識,治療,血圧コントロールに関する長期的な変化について検討を行った。
コホート
米国健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)。
18歳以上の42856人: 1988〜1994年調査(17250人),1999〜2000年調査(4755人),2001〜2002年調査(5251人),2003〜2004年調査(4902人),2005〜2006年調査(5028人),2007〜2008年調査(5670人)。
結論
血圧コントロール率は27.3%(1988〜1994年)から50.1%(2007〜2008年)と有意に改善していることが示された。この結果は,高血圧の認識率,治療率,治療下での血圧コントロール率などが改善したことによるものと考えられた。層別解析の結果からは,若い年齢層(18〜39歳),ヒスパニック,および男性における高血圧の認識率と治療率を上げること,ならびに高齢者(60歳以上),黒人,および女性における血圧コントロール率を上げることが,高血圧のコントロールに重要であると考えられた。

桑島氏: 2008年までの新しいデータを用い,この10年間で米国の高血圧の状況がどのように変化したかを検討した文献です。

高血圧の有病率は若干減り,血圧も,収縮期血圧で143 mmHgから135 mmHgに下がったという良い結果でしたが,なかでも血圧コントロール率は,27.3%から50.1%と大きく改善しました。すなわち,高血圧患者の約半数でコントロールが良好だということです。米国保健社会福祉省による報告書「Healthy People 2010」で掲げられていた,『すべての高血圧患者のうち,血圧コントロール良好な患者を約半数にまで増やす』という国全体での目標も達成されたことになります。

ただし,年齢層,性別,人種などによる内訳をみると,若い人のコントロール率は低く,また自分が高血圧であるという認識も低いことがわかりました。高齢者にくらべて若い人の管理の状況が良くないというのは,日本でも同じです。日本人全体の血圧コントロール率も,改善傾向にはありますが,このデータにくらべるとまだ低いようです。

米国では,アメリカ心臓協会(AHA)なども盛んに啓発を行っていますし,安価なジェネリック医薬品がよく使われていることが影響しているのかもしれません。このような状況や制度の違いはありますが,日本人の血圧コントロール改善のためにも参考にしたい重要なデータです。

― ほかの編集委員からのコメント ―

上島 弘嗣氏 (滋賀医科大学生活習慣病予防センター) この結果にくらべると,日本人の血圧コントロール率はまだまだ悪いといわざるを得ません。ただ,血圧そのものは,1965~1990年頃にかけて,収縮期血圧で約17 mmHgと大きく下がっています。一方,コレステロールの値は,以前高かった米国では低下傾向,以前低かった日本では上昇傾向にあり,最近は日本人のほうが高いくらいになっています。これまでは,血圧との関連が強い疾患である脳出血の割合が高いことが日本の特徴でしたが,新しい世代では,疾病構造にもかなり変化がみられるようになるでしょう。

寺本 民生氏 (帝京大学医学部内科) これから日本人の疾病構造が変わってくるだろうというお話は,コレステロールの観点からも同感です。現在は,これまでコレステロールが低かった時代の影響が「遺産」として残っており,欧米にくらべると依然として心筋梗塞の割合は低いままですが,今後どうなるかはわかりません。


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